広がる「麻疹(はしか)」
── 新宿区の集団感染を受けて、あらためて整理します ──
2026年4月、麻疹の報告が日に日に増えています
2026年4月現在、都内では新宿区の小学校での集団感染を含め、麻疹(はしか)の報告が日に日に増えています。厚生労働省も4月13日に「麻しんの発生に関するリスク評価」を公表し、注意喚起を行っています。コロナ禍で一度は姿を消しかけた感染症ですが、ワクチン接種歴が不十分な世代を中心に、再び広がりつつある状況です。
「小学校のときにかかった記憶があるけれど、もう一度打ったほうがいいのか」「母子手帳をなくしてしまって、自分がワクチンを受けたか分からない」——こうしたご相談が、ここ最近当院でも増えてきました。
この記事では、麻疹という病気の特徴、ふつうの風邪ウイルスと何が違うのか、世代別にどう考えればよいか、そして当院でできること(MRワクチン接種)までを、地域のかかりつけ医の立場から整理します。
麻疹(はしか)とはどんな病気か
麻疹は「麻疹ウイルス」による全身の感染症で、一度かかると一生免疫が続くタイプの病気です。
潜伏期(10〜12日前後)の間は症状がほとんど出ません。その後前駆期(カタル期)に入ると、38〜39℃前後の高熱・強い咳・鼻水・くしゃみ・目の充血・まぶしさといった風邪に似た症状が現れ、口の中(頬の内側)に白い斑点「コプリック斑」が出ることもあります。この段階では「ひどい風邪かな」と判断されがちですが、数日後の発疹期になると、いったん下がった熱が再び上昇し、顔から始まる赤い発疹が胸・お腹・手足へと広がります。全身のだるさが強く、食事・水分が取りづらくなります。
発疹が引いてからも体力が戻るまでに時間がかかり、長く学校や仕事を休まざるを得ないことも少なくありません。
「ふつうの風邪」と決定的に違う3つのポイント
① 感染力が桁違いに強い
麻疹ウイルスの感染力は、インフルエンザや新型コロナウイルスと比べても格段に強いことが知られています。同じ教室や職場にいるだけでうつる、患者さんが部屋を出た後に入った人でも感染することがある——こうした「同じ空気を吸っただけ」で感染が成立する空気感染が起こり得る数少ない病気のひとつです。学校・保育園・職場など人が集まる場では、一度入り込むとあっという間に広がる危険があります。
② 合併症・死亡のリスクが決して低くない
麻疹は「子どもの通過儀礼」ではありません。肺炎・中耳炎・脳炎(死亡や後遺症の原因になり得る)などを合併することがあり、特に乳幼児・妊婦・免疫の弱い方では重症化リスクが高まります。厚生労働省の資料によれば、先進国であっても1,000人に1人程度の割合で脳炎を発症し、死亡する割合も1,000人に1人とされています。「ワクチンで防げるのに亡くなってしまう」病気の代表例といえます。
③ いったんかかると「免疫リセット」が起こる
近年の研究では、麻疹にかかった後、それまで獲得していた他の病気への免疫記憶の一部が失われる現象(「免疫のリセット」)が指摘されています。つまり麻疹にかかると、その後数年間にわたり他の感染症にもかかりやすくなる可能性があるということです。「一度かかれば終わり」ではないのが麻疹の怖さです。
麻疹ワクチン(MR:麻疹風疹混合ワクチン)について
日本では現在、「麻疹と風疹が一緒になったMRワクチン」を使うのが一般的です。1回接種だけでは一部の人で十分な免疫がつかないことが分かっており、2回接種することでほとんどの人で発症予防が期待できるレベルまで免疫が高まることが確認されています。
日本の定期接種スケジュールは、『1期(1歳〜2歳未満で1回)と2期(小学校就学前の1年間に1回)』の計2回です。この2回が完了していれば、重症の麻疹にかかるリスクは大きく下がります。ごくまれに2回接種後でも「軽い麻疹(修飾麻疹)」を起こすことがありますが、症状は比較的軽く、周囲への感染も起こりにくいとされています。
「自分は追加接種が必要?」——世代別の考え方
今回、大人の方に特にお伝えしたいのがこの点です。同じ「大人」でも、生まれた時期によって麻しんワクチン・MRワクチンの接種機会は大きく異なります。以下は一般的な目安であり、最終的には母子手帳などで確認できる接種歴、確実な罹患歴、現在の体調や妊娠の可能性などによって判断が変わります。
2000年4月2日以降に生まれた方
現在のMRワクチン定期接種と同じく、基本的に「1歳の時期」と「小学校入学前の1年間」の2回接種の機会がある世代です。母子手帳で「MRワクチン」または「麻しん・風しんワクチン」を2回接種していることが確認できれば、原則として追加接種は不要と考えられます。
ただし、接種記録が1回のみ、または不明な場合には、追加接種を検討します。海外渡航、留学、医療・保育・教育・福祉関係の仕事など、感染した場合に周囲への影響が大きい方は、特に接種歴の確認が大切です。
1990年4月2日〜2000年4月1日に生まれた方
この世代は、制度上は2回目の接種機会が設けられていた世代ですが、現在の「1歳+小学校入学前」という形とは異なり、中学1年生相当または高校3年生相当の時期に追加接種の機会が設けられていた年代を含みます。そのため、実際に2回接種しているかどうかは、母子手帳や接種記録で確認することが大切です。
2回接種が確認できれば、原則として追加接種は不要です。一方で、1回のみ、または記録がはっきりしない場合には、抗体検査や追加接種を検討します。
1972年10月1日〜1990年4月1日に生まれた方
この年代は、麻しんワクチンの定期接種としては「1回接種」の機会しかなかった可能性が高い世代です。2回接種が一般的になる前の世代であり、さらに子どものころに本当に麻しんにかかったのか、記録が残っていない方も少なくありません。そのため、「免疫が十分かどうか」が分かりにくい年代です。
海外渡航の予定がある方、小さなお子さんや妊婦さんと接する機会が多い方、医療・保育・教育・福祉関係の仕事に就いている方は、追加のMRワクチン接種を前向きに検討してよい年代です。
1972年9月30日以前に生まれた方
この世代は、麻しんワクチンの定期接種が始まる前の世代であり、子どものころに自然感染して免疫を持っている方も多いと考えられます。小児期に医師から麻しんと診断された記録がある、または確実な罹患歴がある場合には、多くの場合、追加接種は不要と考えられます。
一方で、「麻しんだったかどうか分からない」「記録が残っていない」「感染歴も接種歴も不明」という場合には、抗体検査やMRワクチン接種を検討します。特に海外渡航、医療・介護・保育・教育関係の仕事、妊婦さんや乳幼児と接する機会が多い方では、個別にご相談ください。
妊婦さん・妊娠を希望される方、その周囲の大人へ
麻疹は母体だけでなく、妊娠中の合併症や流産・早産のリスクとも関係することが報告されています。MRワクチンは「生ワクチン」のため、妊娠中には接種できません。
妊娠を希望されている方は、妊娠前にMRワクチン接種歴・抗体価を確認しておくことが非常に重要です(風疹対策としても同様です)。すでに妊娠中の方はご本人が接種できないため、パートナー・同居家族・職場の同僚など「周囲の大人」のワクチン接種・免疫確認が大切になります。
当院でできること——MRワクチン接種
当院では、麻疹・風疹混合(MR)ワクチンの接種に対応しています。
ご相談のパターンとして、「自分が2回接種しているか分からないので、母子手帳の見方を教えてほしい」「昭和50年代生まれで追加接種が必要か不安」「小さな子どもがいるので家族全員の麻疹・風疹の免疫状態を整えたい」「妊娠を考えており、麻疹・風疹ともに心配」——など、一人ひとり背景が違います。
診察の流れは、まず問診で生まれ年・これまでの接種歴・罹患歴・ご家族構成・今後の予定(妊娠希望・海外渡航など)を確認し、必要に応じて母子手帳や過去の記録の確認、抗体検査を行います。その上でMRワクチン接種の適応とタイミング、接種後の注意点(妊娠との間隔など)をご説明します。
ワクチンは「足りない人にきちんと届ける」ことが大切です。一律に「全員すぐ打ちましょう」ではなく、世代・状況・接種歴に応じて、必要な方に確実に打つという考え方で、一緒に整理していきます。このブログの「大人のワクチン総論」の記事もあわせてご参照ください。
受診・相談の目安
発熱・咳・鼻水・発疹が出ていて「麻疹かもしれない」と不安な方は、直接来院する前に、必ず電話で症状と状況(流行地域滞在歴・接触歴など)をお知らせください。院内での感染拡大を防ぐため、受診方法や時間帯を調整した上で診察します。
いま症状はないが「自分や家族の麻疹ワクチン状況を確認したい」という方は、通常の外来で、母子手帳や過去の記録を一緒に確認しながら必要性を整理します。
麻疹は、一人ひとりのワクチン接種と早めの疑い・相談で、地域全体の広がり方が大きく変わる感染症です。「今さら聞けない」「こんなことで相談していいのか」という段階でも、どうぞお気軽にご相談ください。
友成第二医院(文京区護国寺)/内科・整形外科・リハビリテーション科
参考