「CPAPって、一生続けるんですか?」
── 外来でよくいただくご質問に、正直にお答えします ──
先日、患者さんからいただいた質問
先日、CPAP治療を始めたばかりの患者さんから、こんな質問をいただきました。
「先生、これってもう死ぬまでずっとやるんですか?」
その言葉に、はっとさせられました。治療の説明はしたつもりでいましたが、「いつまで続くのか」という不安には、十分に答えられていなかったのだと気づいたのです。
同じように感じている方は、きっと少なくないと思います。「一時的に使えば治って、そのうちやめられるのでは」と期待していた方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、この質問に正直にお答えします。答えは「多くの場合は続けることになります。ただし、決して『一生』と決まっているわけではありません」——その理由と、卒業の可能性について、順にお伝えします。
結論:CPAPは「治す治療」ではなく「支える治療」です
まず、いちばん大切な前提からお伝えします。
CPAPは、睡眠時無呼吸そのものを治す治療ではありません。眠っている間に空気を送り込み、気道が閉じないよう物理的に支える——つまり対症療法です。日本呼吸器学会の「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」でも、CPAPを中断すると睡眠時無呼吸は再発すると明確に示されています(エビデンスレベルA)。
私はよく、眼鏡にたとえてご説明します。眼鏡をかけている間はよく見えますが、外せば元の見え方に戻ります。だからといって「眼鏡が効いていない」とは思いませんよね。CPAPも同じで、使っている間、機能を補ってくれているのです。
「治らないのか」と落胆される方もいらっしゃいます。でも、視点を変えてみてください。血圧の薬も、糖尿病の薬も、多くは飲み続けるものです。CPAPだけが特別なわけではありません。当院ブログの高血圧と言われたら最初に知っておきたいことでもお伝えしたように、慢性の病気とは「治す」より「うまく付き合う」ものなのです。
なぜ「治らない」のか——気道が狭い理由
では、なぜ根本的に治らないのでしょうか。それは、気道が狭くなる原因にあります。
睡眠時無呼吸の主な要因として、日本呼吸器学会のガイドラインでは肥満、性別、年齢、頭蓋顎顔面形態(顔の骨格)などが挙げられています。このうち、骨格や年齢は、自分で変えることができません。
日本人はもともと欧米人に比べてあごが小さく後退している傾向があり、それだけで気道が狭くなりやすいことが指摘されています。この点は当院ブログの「いびきがうるさい」と言われたことがなくてもで詳しくお伝えしました。
つまり、「変えられない要因」が大きく関わっているから、CPAPを外すと元に戻ってしまうのです。
それでも「卒業」できる可能性はあります
ここからが、希望のあるお話です。
原因の中には、変えられるものもあります。それが改善すれば、CPAPが不要になったり、より負担の少ない治療に切り替えられたりする可能性があります。
① 減量——最も大きな可能性
肥満が主な原因である方にとって、減量は最も根本的な対策です。
体重とAHI(1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数)の関係を調べた研究では、体重の10%減少でAHIが約30%改善、20%減少で約50%改善したと報告されています。これは決して小さな数字ではありません。
実際、減量が順調に進んだ結果、CPAPを中止できたり、マウスピースに切り替えられたりするケースがあります。ただし、もともと肥満の程度が軽い方や、無呼吸が非常に重い方では、減量だけでの中止は難しいこともあります。
近年は、肥満症治療薬による医学的な減量も選択肢に加わりました。2026年4月には、GIP/GLP-1受容体作動薬について、中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸を合併する肥満の方への保険適用の方針が示されています。当院のメディカルダイエット外来については、当院ブログの「痩せる注射」のニュースが気になる方へ、肥満症外来(自費)を開始しましたをご覧ください。
ここで大切なこと。「減量が進まないのは、意志が弱いから」ではありません。睡眠時無呼吸そのものが日中の眠気や倦怠感を招き、体を動かす意欲を奪います。さらに睡眠不足は食欲を調節するホルモンのバランスを乱し、太りやすい状態をつくります。だからこそ、CPAPで睡眠を整えながら減量に取り組む——この二本立てが、遠回りに見えて最短の道になります。
② 鼻の治療
鼻炎や副鼻腔炎で鼻づまりがある方は、その治療によって状況が変わることがあります。鼻の通りが良くなればCPAPも使いやすくなり、場合によっては必要な圧が下がることもあります。
③ 扁桃やアデノイドの問題
扁桃腺が大きいことが気道を狭くしている場合、手術で改善が期待できることがあります。特に肥満がなく、扁桃が大きい方では効果が高いとされています。
④ 寝る姿勢の工夫
仰向けのときだけ無呼吸が強く出るタイプの方では、横向きで眠る工夫(体位療法)が有効なことがあります。
卒業を目指すときの、大切な注意点
「よし、減量してCPAPをやめよう」と思われた方に、必ずお伝えしたいことがあります。
① 自己判断で中止しないでください
体重が減っても、実際に無呼吸が改善しているかは検査で確認する必要があります。自己判断でやめてしまうと、気づかないうちに無呼吸が続き、血圧や心臓への負担がかかり続けることになります。
② 再評価には準備が必要です
CPAPを毎晩使っていると気道が広がった状態が続くため、中止直後に検査をしても正確な評価ができません。一定期間CPAPを止めて体を自然な状態に戻してから、改めて検査を行う必要があります。この段取りも含めて、医師と相談しながら進めましょう。
③ 体重が戻れば、無呼吸も戻ります
減量に成功しても、体重が元に戻れば無呼吸も再発します。また、加齢や筋力の低下など別の要因が加わることもあります。「卒業」は「もう気にしなくていい」という意味ではなく、「維持を続ける」という新しいステージだとお考えください。
「ずっと続ける」を、どう捉えるか
最後に、冒頭の質問に立ち返ります。
「一生続けるんですか」——この問いには、「終わりが見えない」という不安が込められていると思います。
私がお伝えしたいのは、続けることで守られているものがある、ということです。CPAPを使い続けることで、日中の眠気から解放され、仕事のパフォーマンスが保たれ、運転中の事故リスクが下がり、血圧や心臓への負担が軽くなります。当院ブログの薬を飲んでも血圧が下がらない方へでお伝えしたように、血圧の改善が期待できることも報告されています。
つまり、「一生使わなければならない」のではなく、「使い続けることで、これからの人生を守っている」——そう捉えていただけたらと思います。
そして、その間も「変えられる部分」に一緒に取り組んでいけます。減量が進めば選択肢が広がりますし、鼻の状態が改善すれば使いやすくなります。「ずっとこのまま」ではなく、「一緒に育てていく治療」なのです。
「ここまで来たら相談を」の受診目安
次のような方は、一度ご相談ください。
- CPAPをいつまで続けるのか不安に感じている
- 減量してCPAPを卒業したいと考えている
- 体重が大きく減ったので、再評価してほしい
- 鼻づまりが気になっており、治療を検討したい
- マウスピースなど他の選択肢を知りたい
- 自己判断で使用を中断してしまった
不安を抱えたまま続けるより、疑問をぶつけていただくほうが、私たちも力になれます。
当院でできること
当院では、CPAP治療を続けている方の定期的なフォローを行っています。
診察では、機器に記録された使用状況を確認しながら、治療がうまくいっているかを客観的に把握します。同時に、体重・血圧・生活習慣の変化も一緒に見ていきます。「今の治療をどう続けるか」だけでなく、「これからどう変えていけるか」も含めてご相談いただけます。
減量に取り組みたい方には、当院のメディカルダイエット外来でのご相談も可能です。当院は内科として高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病の管理も行っており、睡眠・体重・生活習慣病をまとめて診られることが強みです。鼻の治療や手術など専門的な対応が必要な場合は、専門医療機関と連携してご紹介します。
当院ブログのCPAP治療って、実際どんなもの?、睡眠時無呼吸症候群とはもあわせてご覧ください。
護国寺・大塚・目白台・雑司ヶ谷・東池袋・江戸川橋エリアにお住まいの皆様、そしてこのエリアで働く皆様。「いつまで続くのだろう」という不安も、どうぞそのままお持ちください。一緒に道筋を考えましょう。
次の一手——今日からできる3つのこと
① 「いつまで続くのか」の不安を、次回の診察で率直に伝えてみる
② 現在の体重を記録し、減量の余地があるか一緒に確認する
③ 鼻づまりなど気になる症状があれば、あわせてご相談を
よくあるご質問(FAQ)
Q. CPAPを使えば、睡眠時無呼吸は治りますか?
A. CPAPは気道を支える対症療法であり、無呼吸そのものを治すものではありません。中断すると再発することが示されています。ただし、減量など原因の改善によって状況が変わる可能性はあります。
Q. どのくらい痩せればCPAPをやめられますか?
A. 体重の10%減少でAHIが約30%、20%減少で約50%改善したという報告があります。ただし個人差が大きく、もともとの重症度や骨格の影響も受けます。まずは主治医と目標を相談してみてください。
Q. 体重が減ったので、自分で使うのをやめてもいいですか?
A. 自己判断での中止は避けてください。改善しているかは検査で確認する必要があり、その際もCPAPを一定期間止めてから測定するなどの段取りが必要です。必ずご相談ください。
Q. CPAP以外の治療に変えることはできますか?
A. 重症度や体格、骨格によっては、マウスピース(口腔内装置)や手術、体位療法などが選択肢になることがあります。どれが適しているかは検査結果によって異なりますので、ご相談ください。
Q. 一生使い続けると聞いて、気持ちが落ち込んでいます。
A. そのお気持ちは自然なものです。ただ、血圧や糖尿病の薬も多くは続けるものであり、CPAPだけが特別ではありません。続けることで日中の眠気や将来のリスクから守られている、と捉えていただけたらと思います。不安があれば、いつでもお話しください。
友成第二医院(文京区護国寺)/内科・整形外科・リハビリテーション科
参考
この記事の監修者
鈴木一平(すずき いっぺい)
医療法人社団護友会 友成第二医院 院長
広島大学医学部医学科卒。総合診療医として内科・救急・訪問診療に従事。
日本内科学会内科認定医/日本専門医機構認定内科専門医