「いびきがうるさい」と言われたことがなくても
── やせ型でも要注意。日本人の顔立ちと睡眠時無呼吸のはなし ──
「自分には関係ない」と思っていませんか
睡眠時無呼吸症候群(SAS)と聞くと、多くの方が「太った男性が、大きないびきをかいて眠っている」という姿を思い浮かべるのではないでしょうか。
そのイメージがあるために、「自分はやせているから大丈夫」「いびきを指摘されたことがないから関係ない」と考えている方がとても多くいらっしゃいます。
でも、実はそうとは限りません。むしろ日本人には、体型に関係なく睡眠時無呼吸が起こりやすい理由があります。この記事では、「自分は当てはまらない」と思っている方にこそ知っていただきたいことをお伝えします。
結論:いびきの有無は、判断材料としてあてになりません
先に、意外に思われるかもしれない事実からお伝えします。
日本呼吸器学会の「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」によると、「いびき」という症状は、睡眠時無呼吸の予測因子としてほとんど役に立たないことが、複数の研究で示されています。レビューに含まれた6つの研究のすべてで、いびきの有無から睡眠時無呼吸を予測することはできませんでした。
一方で、より信頼できるサインとして挙げられているのが、「睡眠中の窒息感やあえぎ呼吸とともに目覚めること」です。こちらは、いびきと比べて格段に高い予測力を持つとされています。
つまり、「いびきをかいていないから大丈夫」という判断は、医学的には成り立たないのです。逆に、いびきをかいていても無呼吸がない方もいます。いびきは、あくまで数ある手がかりのひとつにすぎません。
やせているのに、なぜ?——日本人の顔立ちという要因
睡眠時無呼吸の最大の要因が肥満であることは事実です。首まわりに脂肪がつくと、眠っているときに気道が狭くなりやすくなります。
しかし、それだけではありません。日本呼吸器学会のガイドラインには、危険因子として肥満・性別・年齢と並んで「頭蓋顎顔面形態」——つまり顔の骨格が挙げられており、アジア人では特に下顎が後退していることの影響が指摘されていると明記されています。
日本人を含むアジア人は、欧米人と比べてあごが小さく、後ろに引っ込んでいる傾向があります。あごが小さいということは、その内側にある舌の収まるスペースも狭いということです。眠って全身の筋肉がゆるむと、舌が喉のほうへ落ち込みやすく、気道をふさいでしまいます。
つまり、太っていなくても、骨格の特徴だけで気道が狭くなりうるのです。「やせているのに睡眠時無呼吸」というケースが日本で決して珍しくないのは、このためです。
女性も他人事ではありません——閉経後の変化
「男性の病気」というイメージも、正確ではありません。
たしかに、有病率は男性のほうが高いことが知られています。しかし国内の大規模な調査では、閉経後の女性では有病率が明らかに上昇することが示されています。閉経前の女性と比べて、その差は大きなものでした。
女性ホルモンには気道の筋肉の働きを保つ作用があると考えられており、閉経に伴ってその保護が失われることが背景にあるとされています。
また、女性の睡眠時無呼吸は、典型的な「大きないびき」よりも、不眠・疲労感・気分の落ち込みといった形で現れることがあり、見過ごされやすい傾向もあります。当院ブログの更年期障害と上手に付き合うためにや眠れない・ストレスがつらいときの対処もあわせてご覧ください。
「自分は大丈夫?」セルフチェック
いびき以外にも、手がかりはたくさんあります。次の項目を確認してみてください。
眠っている間のこと(同居の方に聞けると理想的):
- 息が詰まるような感じ、あえぎ呼吸で目が覚めることがある
- 呼吸が止まっていると指摘されたことがある
- 夜中に何度も目が覚める
- 夜間に何度もトイレに起きる
朝のこと:
- 起きたときに頭が痛い、頭が重い
- 口やのどがカラカラに乾いている
- 「よく眠れた」という感覚がない
日中のこと:
- 十分寝たはずなのに強い眠気がある
- 会議中や運転中に意識が飛びそうになる
- 集中力が続かない、疲れが抜けない
体格・持病のこと:
- あごが小さい、下あごが後ろに引っ込んでいる
- 首が短い・太い
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症を指摘されている
- 血圧の薬を飲んでも下がりにくい
当てはまる項目が複数ある方は、体型やいびきの有無にかかわらず、一度確認してみる価値があります。特に「息が詰まって目が覚める」「あえぎ呼吸で目覚める」に心当たりのある方は、優先的にご相談ください。
一人暮らしの方、寝室が別の方へ
睡眠時無呼吸のもっとも困った点は、眠っている間の出来事なので、本人には確かめようがないということです。
いびきや呼吸の停止に気づくのは、たいていご家族です。逆にいえば、一人暮らしの方、寝室が別のご夫婦、単身赴任中の方などは、何年も気づかれないまま経過することがあります。
そういう方にこそ、頼りになるのが「日中の手がかり」です。強い眠気、朝の頭痛、口の渇き、そして血圧が下がりにくいこと——これらは、指摘してくれる人がいなくても自分で気づける情報です。当院ブログの薬を飲んでも血圧が下がらない方へでもお伝えしたように、血圧の数値が夜の呼吸を教えてくれることがあります。
また、最近ではスマートウォッチや睡眠アプリで睡眠の状態を記録している方も増えました。これらは診断のための医療機器ではありませんが、「何かおかしい」と気づくきっかけとしては有用です。詳しくは睡眠アプリで「眠りの質」を測っている方へをご覧ください。
放置するとどうなるのか
「少し眠いだけ」と軽く考えられがちですが、睡眠時無呼吸を放置すると、体には確実に負担が積み重なります。
眠っている間に何度も酸素不足になることで、高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病が悪化しやすくなり、長期的には脳卒中や心筋梗塞のリスクを高めることが知られています。
また、日中の強い眠気は、仕事の能率を下げるだけでなく、運転中の事故リスクにも直結します。ガイドラインでも、適切な治療によって事故リスクが低下することが示されています。
逆にいえば、気づいて治療すれば、これらのリスクを減らせるということです。「気づくこと」そのものに、大きな意味があります。
「ここまで来たら相談を」の受診目安
次のような場合は、体型やいびきの有無にかかわらず、一度ご相談ください。
- 息が詰まる感じ、あえぎ呼吸で目が覚めることがある
- しっかり寝ても日中の眠気が続く
- 朝の頭痛・口の渇きが習慣になっている
- 運転中や会議中に眠気で困ったことがある
- 血圧の薬を飲んでも下がりにくい
- 夜中に何度もトイレに起きる
「やせているから」「いびきを指摘されたことがないから」という理由で受診をためらう必要はありません。確かめてみて何もなければ、それが一番の安心です。
当院でできること
当院では、「自分は当てはまるだろうか」という段階からのご相談をお受けしています。
問診では、睡眠中の様子・日中の症状・生活習慣・持病などを丁寧に伺います。ご家族から指摘されたことがなくても構いません。日中の眠気や朝の状態、血圧の経過など、さまざまな角度から可能性を確認していきます。
睡眠時無呼吸が疑われる場合は、ご自宅で普段どおり眠りながら受けられる簡易検査をご案内できます。検査機器を装着して一晩眠っていただくだけで、睡眠中の呼吸や酸素の状態を測定でき、入院は必要ありません。結果に応じて、CPAP治療や生活習慣の見直しを一緒に考えていきます。
当院では高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病の管理も行っており、睡眠と生活習慣病をまとめて診られることが強みです。当院ブログの睡眠時無呼吸症候群とはもあわせてご覧ください。
護国寺・大塚・目白台・雑司ヶ谷・東池袋・江戸川橋エリアにお住まいの皆様、そしてこのエリアで働く皆様。「もしかして」と思ったら、どうぞお気軽にご相談ください。
次の一手——今日からできる3つのこと
① 上のセルフチェックで、当てはまる項目を数えてみる
② 同居の方がいれば「呼吸が止まっていたことはある?」と聞いてみる
③ 当てはまる項目が複数あれば、当院へご相談を
よくあるご質問(FAQ)
Q. やせていても睡眠時無呼吸になりますか?
A. なります。肥満は最大の要因ですが、日本人はあごが小さく後退している傾向があり、体型に関係なく気道が狭くなりやすいことが指摘されています。やせ型の方の睡眠時無呼吸は決して珍しくありません。
Q. いびきをかいていないと言われますが、それでも可能性はありますか?
A. あります。研究では、いびきの有無から睡眠時無呼吸を予測することは難しいと示されています。むしろ「息が詰まる感じで目が覚める」「日中の強い眠気」のほうが手がかりになります。
Q. 女性でも睡眠時無呼吸になりますか?
A. なります。男性より有病率は低いものの、閉経後は明らかに上昇することが分かっています。女性では不眠や疲労感として現れることもあり、見過ごされやすい傾向があります。
Q. 一人暮らしで、いびきや呼吸の様子を誰にも聞けません。
A. 日中の眠気、朝の頭痛や口の渇き、下がりにくい血圧などが手がかりになります。ご自宅でできる簡易検査で確認することもできますので、ご相談ください。
Q. 検査は入院が必要ですか?費用はどのくらいですか?
A. まずはご自宅で普段どおり眠りながら受けられる簡易検査からご案内でき、入院は不要です。保険診療で受けられます。具体的な費用は診察時にご説明しますので、お気軽にお尋ねください。
友成第二医院(文京区護国寺)/内科・整形外科・リハビリテーション科
参考
この記事の監修者
鈴木一平(すずき いっぺい)
医療法人社団護友会 友成第二医院 院長
広島大学医学部医学科卒。総合診療医として内科・救急・訪問診療に従事。
日本内科学会内科認定医/日本専門医機構認定内科専門医