「HbA1cが少し高い」と言われたら——糖尿病の手前で、今できること
── 5.6〜6.4%が意味することと、次の一歩 ──
「糖尿病ではない」と言われた。でも、安心していいのか分からない
健診の結果を開くと、HbA1cの欄に「5.8」や「6.1」という数字と、小さな「H」の印。判定は「要注意」や「要再検査」。それでいて、医師のコメントには「糖尿病ではありません」とも書いてある——。
「結局、大丈夫なの? それとも病院に行ったほうがいいの?」と迷われる方は少なくありません。
この記事では、HbA1cが少し高いと言われた方に向けて、その数値の意味、受診を考える目安、そして今日からできることを順にお伝えします。
先にお答えします:「糖尿病の手前」で、見直しが活きる段階です
HbA1cが5.6〜6.4%の範囲は、多くの場合、まだ糖尿病と診断される段階ではありません。ただし正常とも言い切れない、「糖尿病の手前」にあたる範囲です。
そしてこの段階は、生活習慣の見直しが結果に結びつきやすい時期でもあります。国内外の研究では、食事・運動療法や減量にしっかり取り組んだ方で、2型糖尿病の発症をおよそ3割から6〜7割程度防げたと報告されています(研究によって幅があります)。
慌てる必要はありません。でも、「何もしなくていい」数値でもありません。 これが、少し高いHbA1cへの答えです。
数値ごとの意味と受診の目安を、順にご説明します。
HbA1cは「過去1〜2か月の血糖のあらまし」
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)は、赤血球の中にあるヘモグロビンのうち、血液中の糖がくっついたものの割合です。ヘモグロビンは作られてから壊されるまでの約120日間、血液中の糖にさらされ続けます。そのため、HbA1cは過去1〜2か月の血糖の状態をおおまかに映し出します。
採血の直前に何を食べたかで変わる血糖値とは違い、「ここしばらくの平均的な状態」が分かるのがHbA1cの特徴です。健診の前日だけ食事に気をつけても、HbA1cはあまり変わりません。少し高めだったということは、ここ1〜2か月、血糖がやや高めの状態が続いていたサインと考えられます。
数値の区切りと、それぞれの意味
健診の判定と日本糖尿病学会の考え方を合わせると、HbA1cはおおむね次のように整理できます。
| HbA1c | 位置づけ |
|---|---|
| 5.5%以下 | 健診で異常なしとされる範囲 |
| 5.6〜5.9% | 将来、糖尿病を発症するリスクが高いグループ(特定健診では保健指導の対象) |
| 6.0〜6.4% | 糖尿病の疑いが否定できないグループ(特定健診では保健指導の対象) |
| 6.5%以上 | 「糖尿病型」(特定健診では医療機関の受診が勧められる値) |
ただし、HbA1cだけで糖尿病と診断されることはありません。6.5%以上の場合も、血糖値をあわせて確認したうえで判断します。
健診では、空腹時血糖の値もあわせてご覧ください。区切りは次のとおりです。
- 100〜109mg/dL:正常域の中の「正常高値」
- 110〜125mg/dL:境界型にあたる範囲
- 126mg/dL以上:「糖尿病型」
HbA1cと空腹時血糖は見ている時間の幅が違うため、両方を並べることで今の状態がより正確に見えてきます。
では、自分の数値はどう考えればいいか
ここで大切なのは、「今年の数字」だけで判断しないことです。
同じHbA1c 5.8%でも、ここ数年ずっと5.8%前後の方と、5.4→5.6→5.8と毎年少しずつ上がってきている方とでは、意味合いが違います。2型糖尿病の多くは、ある日突然ではなく、何年もかけてゆっくり血糖が高くなって発症するといわれています。毎年の上昇は、その流れの途中にいるサインかもしれません。
だからこそ、去年・一昨年の結果があれば並べてみてください。[健診の結果が届く前に、やっておきたいこと]でもお伝えしたとおり、過去の結果は「流れ」を見るための大切な材料です。
HbA1c以外の要素も関係します。日本人の40〜59歳を10年間追跡した調査では、体重の増加(BMIの上昇)、糖尿病の家族歴、高血圧、喫煙、飲酒などが、2型糖尿病の発症リスクを高める要因として示されています。同じ数値でも、こうした要因が重なっている方は、早めに手を打つことがより大切になります。
症状がないのに、なぜ「今」なのか
HbA1cが少し高い段階では、自覚症状はほとんどありません。「困っていないのだから、まだいいか」と思うのは、ごく自然なことです。
ただ、体の中では変化が始まっています。血糖を下げるホルモンであるインスリンの出方や効き方の変化は、糖尿病と診断されるずっと前から起きているといわれています。また、血糖がやや高い状態は血管にも負担をかけます。糖尿病予備群の段階から動脈硬化が進み、心臓や脳の血管の病気につながりやすくなることも分かっています。
裏を返せば、この段階で手を打つことは、糖尿病そのものだけでなく、将来の心臓や脳の病気を防ぐことにもつながります。症状が出てから動くより、数値で教えてもらえた今のほうが、選べる道はずっと多いのです。
今日からできること——「全部」ではなく「一つ」から
糖尿病情報センターでは、糖尿病予備群の方の生活習慣の見直しとして、次のような取り組みを挙げています。
- 食事を腹八分目にする
- 野菜を積極的にとる
- 散歩などの運動を少しずつ始める
- 体重を5〜10%減らす
- 禁煙する
すべてを一度に始める必要はありません。続けられそうなことを一つ選ぶところからで十分です。
たとえば食事なら、おかわりをやめて腹八分目を意識する。運動なら、通勤でひと駅分歩く、エレベーターの代わりに階段を使う。体重なら、70kgの方で3.5〜7kgが5〜10%の目安ですが、まずは毎朝体重計に乗って、数字を目に見える形にするところから。喫煙されている方は、禁煙も大きな一歩です。
どこから手をつけるか迷う方は、当院公式LINEの「生活習慣病リスク診断」も参考にしてみてください。約90秒で、生活習慣からみたリスクの傾向を確認できる簡易的なツールです(医学的な診断ではありません)。この画面の左下(スマートフォンでは画面下部)のバナーから始められます。
受診を考える目安
次のような場合は、早めに医療機関へご相談ください
- HbA1cが6.5%以上、または空腹時血糖が126mg/dL以上だった
- のどが渇く、尿の回数や量が増えた、食べているのに体重が減る、といった症状がある
- 健診で「要精密検査」「要医療」と判定された
次のような場合も、一度相談しておくと安心です
- HbA1cが6.0〜6.4%、または空腹時血糖が110〜125mg/dLだった
- 5.6〜5.9%でも、毎年少しずつ上がっている
- 5.6〜5.9%で、高血圧・脂質異常・肥満がある、またはご家族に糖尿病の方がいる
「この程度で行っていいのかな」と迷う段階こそ、ご相談いただきたいタイミングです。何もなければ、それも一つの安心材料になります。毎年同じ項目で指摘を受けている方は、[健診で毎年同じ指摘、放っていませんか?]もあわせてお読みください。
当院でできること
当院は、健診でHbA1cや血糖を指摘されて「どうしたらいいか分からない」という方の、最初の相談窓口でありたいと考えています。
健診の結果票(過去の分があればそれも)をお持ちいただければ、数値の推移を一緒に確認しながら、今の状態とこれから何をすればよいかを整理します。必要に応じて採血で再検査を行います。採血は外部の検査機関で測定するため、結果は当日ではなく後日のご説明になります。空腹時血糖を確認する場合は、10時間以上食事をとらない状態での採血が必要になるため、受診のタイミングはご相談ください。
なお、75gブドウ糖負荷試験(OGTT:ブドウ糖を溶かした液を飲み、その前後の血糖値の変化を調べる検査)は当院では行っていません。数値や体の状態からこの検査が必要と考えられる場合は、実施できる医療機関へご紹介します。
血糖だけでなく、血圧・脂質・尿酸・体重など、生活習慣病に関わる項目をまとめて見ていけるのも、内科のかかりつけ医の役割です。すでに糖尿病と診断された方は、[糖尿病と言われたら]もご覧ください。
護国寺・大塚・目白台エリアにお住まいの皆様、そしてこのエリアで働く皆様。「少し高いと言われたけれど、どうしたらいいか分からない」という段階でのご相談も歓迎します。結果票を持って、どうぞお気軽にお越しください。分かるまで、丁寧にご説明します。
次の一手——今日からできること
- 健診結果のHbA1cと空腹時血糖の数字を、もう一度確認する
- 去年・一昨年の結果があれば並べて、上がっているかどうかを見る
- 食事・運動・体重のうち、続けられそうなことを一つだけ決める
よくあるご質問
Q. 健診の前日に甘いものを食べました。そのせいで高く出たのでしょうか?
A. HbA1cは過去1〜2か月の血糖のあらましを反映するため、前日の食事だけで大きく変わることはありません。一方、空腹時血糖は直前の食事の影響を受けるため、健診当日の条件も含めて確認します。
Q. HbA1cが6.5%以上でした。もう糖尿病なのでしょうか?
A. 6.5%以上は「糖尿病型」にあたりますが、HbA1cだけで糖尿病と診断することはありません。血糖値もあわせて確認し、必要に応じて再検査を行ったうえで判断します。早めにご相談ください。
Q. 太っていないのに、HbA1cが高いと言われました。
A. 体質的にインスリンが出にくい方もいるため、体型だけでは判断できません。食事の内容や運動量、ご家族に糖尿病の方がいるかどうかも含めて、一緒に確認しましょう。
Q. すぐに薬を飲むことになりますか?
A. 糖尿病の手前の段階では、まず食事や運動、体重の見直しから始めるのが基本です。薬が検討されるのは、一部の限られた場合です。
Q. 次はいつ検査すればいいですか?
A. 数値やほかのリスクによって変わります。翌年の健診を待てばよい場合もあれば、数か月後に確認したほうがよい場合もあるため、結果票をお持ちのうえでご相談ください。
友成第二医院(文京区護国寺)/内科・整形外科・リハビリテーション科
参考文献
- 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)「糖尿病予備群といわれたら」
- 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)「糖尿病と関連する検査」
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第1章 糖尿病診断の指針
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「高血糖」
この記事の監修者
鈴木一平(すずき いっぺい)
医療法人社団護友会 友成第二医院 院長
広島大学医学部医学科卒。総合診療医として内科・救急・訪問診療に従事。
日本内科学会内科認定医/日本専門医機構認定内科専門医