健診で「肝機能の数値が高い」と言われたら——ALT 30超えは相談の目安です
── 「異常なし」でも気にしてほしい数字と、脂肪肝のはなし ──
判定は「異常なし」。でも、ALTは35だった
健診の結果を開き、肝機能の欄に目を通す。AST、ALT、γ-GTP——。ALTは「35」。それでも判定欄は「A」や「軽度異常」で、特に何も書かれていない。
「お酒もそんなに飲まないし、たぶん大丈夫だろう」。そう思って、結果の紙を閉じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、健診で肝機能の数値が高めと言われた方、そして判定は問題なくてもALTが30を超えていた方に向けて、数値の意味と受診の目安、今日からできることをお伝えします。
先にお答えします:ALT 30超えは「病気の確定」ではなく「一度相談する目安」です
日本肝臓学会は2023年に「奈良宣言2023」を発表し、健診などでALTが30を超えていたら、まずかかりつけ医に相談することを勧めています。目的は、かかりつけ医で採血や腹部エコーを受け、必要な方は消化器内科などでの詳しい検査につなげて、肝臓の病気を早く見つけることです。
ここで知っておいていただきたいのは、健診の判定欄で「基準内」と表示されていても、この目安に当てはまることがあるという点です。健診機関によって採用している基準範囲が違うため、ALTが30を超えていても「異常なし」と返ってくることがあります。
また、健康な成人の約15%はALTが30を超えるという報告もあります。珍しいことではありません。
ALTが30を超えたからといって、すぐに重い病気というわけではありません。でも、「そのままでいい」と決めてしまう前に、一度確認しておく価値がある数字です。
AST・ALT・γ-GTPは、それぞれ何を見ているのか
健診の肝機能の欄には、主に3つの数値が並んでいます。
ASTとALTは、肝臓の細胞の中にある酵素です。肝細胞が傷つくと血液中に漏れ出し、数値が上がります。特にALTはほかの臓器にあまり含まれていないため、肝臓の状態をよく反映します。
γ-GTP(γ-GT)は、主に胆管に分布する酵素です。お酒の飲みすぎ、一部の薬による肝臓への負担、胆汁の流れが滞ったときなどに上がります。健診では50U/L以下が正常値とされています。
どれか一つだけで判断するのではなく、組み合わせや去年からの推移を見ることで、原因の見当がつきやすくなります。採血の数値全体の見方は、血液検査の読み方でもご紹介しています。
数値が上がる主な原因
肝機能の数値が上がる原因として、まず考えるのは次のようなものです。
- 脂肪肝:肝臓に脂肪がたまった状態。いま最も多い原因の一つです。
- お酒:量が多いと、特にγ-GTPが上がりやすくなります。
- ウイルス性肝炎:B型・C型肝炎ウイルスへの感染です。自覚症状がないまま続いていることがあります。
- 薬やサプリメント:服用中のものが肝臓に負担をかけている場合があります。
このほかにも原因はさまざまで、一つに決めつけずに順に確認していくことが大切です。
「お酒を飲まないのに」——その脂肪肝、呼び名が変わりました
「お酒はほとんど飲まないのに、脂肪肝と言われた」という方は少なくありません。
お酒が原因ではない脂肪肝は、これまで「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」と呼ばれてきました。現在は「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD:マッスルディー)」という名前に変わっています。
新しい名前には、肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧といった「代謝の異常」と関わりのある脂肪肝、という意味が込められています。健診や人間ドックを受ける方の約4人に1人がMASLDにあたるとされ、決して珍しい状態ではありません。
脂っこいものを控えているのに、と思われるかもしれません。ただ、糖分や炭水化物も、必要以上にとると中性脂肪に形を変えて肝臓にたまります。また、日本ではMASLDの方の約2割が肥満ではないと推定されていて、体質も関係しています。
もう一つ大切なのは、ALTが正常でも脂肪肝がないとは限らないことです。肥満傾向のある方や、糖尿病・脂質異常症・高血圧などがある方は、腹部エコーで脂肪肝の有無を確認しておくことが勧められています。血糖やコレステロールを指摘された方は、「HbA1cが少し高い」と言われたらやLDLコレステロールが高いと言われたらもあわせてご覧ください。
症状がないのに、なぜ確認しておきたいのか
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、脂肪肝の段階ではほとんど自覚症状がありません。
多くの脂肪肝はそのままの状態にとどまります。ただ、一部の方では肝臓に炎症が起き(MASH:代謝機能障害関連脂肪肝炎)、長い時間をかけて肝臓が硬くなり、肝硬変や肝がんにつながることがあります。また脂肪肝は、心筋梗塞や脳卒中など血管の病気とも関係が深いことが分かっています。
裏を返せば、数値で気づけた今の段階で生活を整えることが、肝臓だけでなく全身の健康を守ることにつながります。
今日からできること
肝炎情報センターは、脂肪肝の改善には食事と運動の見直しが基本であるとしています。
体重:肥満のある方は、体重を7%減らすと肝臓の炎症が改善し、10%減らすと肝臓の硬さ(線維化)の改善も報告されています。体重80kgの方なら約5.6kgが7%です。急がず、半年から1年かけてゆっくり進めることが勧められています。肥満ではない方は、一律の目標ではなく、一人ひとりに合わせて考えます。
運動:目安は1週間に150分以上ですが、まずは1日5分、10分でも体を動かすことから。軽く汗をかく有酸素運動に加え、スクワットなどの筋トレも効果があるとされています。膝や腰が痛い方は、椅子に座ったままの体操でも構いません。
食事:ジュースや清涼飲料水、果物の食べすぎは、果糖のとりすぎにつながります。緑黄色野菜や食物繊維を意識してとりましょう。
お酒:缶ビール350mLを2本で、純アルコール約28gです。1日の飲酒量がこれより少なくても肝臓への影響がゼロではないことも分かってきています。まずはご自分が普段どのくらい飲んでいるかを知ることが第一歩です。
一度も肝炎ウイルス検査を受けたことがない方へ
B型・C型肝炎ウイルスに感染していても、自覚症状がないことがほとんどです。健診の肝機能が正常でも、感染していないとは言い切れません。
厚生労働省は、すべての方が少なくとも一度は肝炎ウイルス検査を受けることを勧めています。検査は採血で受けられます。これまで受けた記憶がない方は、肝機能の数値をきっかけに一度確認しておくと安心です。
受診を考える目安
次のような場合は、早めに医療機関へご相談ください
- 白目や皮膚が黄色い、尿の色が濃い茶色になった
- 強いだるさや食欲のなさが続いている
- 健診で肝機能について「要精密検査」「要医療」と判定された
- 肝炎ウイルスが陽性と言われたことがあるが、受診していない
次のような場合も、一度相談しておくと安心です
- ALTが30を超えていた(判定欄が「基準内」でも)
- 肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧があり、肝機能の数値も高めだった
- 毎年少しずつ数値が上がっている
- 肝炎ウイルス検査を受けたことがない
毎年同じ項目を指摘されている方は、健診で毎年同じ指摘、放っていませんか?もあわせてお読みください。
当院でできること
当院は、「肝機能の数値が気になるけれど、どこに相談すればいいか分からない」という方の、最初の相談窓口でありたいと考えています。
健診の結果票(過去の分があればそれも)をお持ちいただければ、数値の推移を一緒に確認します。そのうえで必要に応じて、肝機能の再検査や、B型・C型肝炎ウイルスの検査を採血で行います。腹部エコーで脂肪肝の有無など、肝臓の状態を確認することもできます。服用中の薬やサプリメントがあれば、お薬手帳や現物をお持ちください。
より詳しい検査や専門的な治療が必要と考えられる場合は、消化器内科など適切な医療機関へご紹介します。脂肪肝は糖尿病や脂質異常症、高血圧と重なりやすいため、それらもまとめて見ていけるのが内科のかかりつけ医の役割です。
護国寺・大塚・目白台・音羽・雑司ヶ谷エリア近隣にお住まいの皆様、そしてこのエリアで働く皆様。「この程度で相談していいのかな」と迷う数字こそ、ご相談いただきたいタイミングです。分かるまで、丁寧にご説明します。
次の一手——今日からできること
- 健診結果の判定欄ではなく、ALTの「数字」を確認する
- 1週間、飲んだお酒の量をメモしてみる
- 肝炎ウイルス検査を受けたことがあるか、思い出してみる
よくあるご質問
Q. γ-GTPだけが高いと言われました。
A. γ-GTPは、お酒の影響を受けやすい数値です。ただし、脂肪肝や薬、胆道の病気でも上がることがあります。ほかの数値や飲酒の状況とあわせて確認しましょう。
Q. お酒をやめれば数値は下がりますか?
A. 飲酒が主な原因であれば、改善が期待できます。ただ、脂肪肝やウイルス性肝炎など別の原因が重なっていることもあるため、一度確認しておくと安心です。
Q. やせているのに脂肪肝と言われました。
A. 体質なども関係するため、肥満でない方にも脂肪肝は見られます。日本ではMASLDの方の約2割が肥満ではないと推定されています。
Q. 肝炎ウイルス検査は、何度も受ける必要がありますか?
A. これまでに受けたことがなければ、まず一度受けることが勧められています。その後の検査の必要性は、結果やその後の状況に応じてご相談ください。
Q. 脂肪肝に効く薬はありますか?
A. 現時点で、脂肪肝そのものを対象として保険で使える治療薬はありません。食事と運動による体重の見直しが治療の中心です。
友成第二医院(文京区護国寺)/内科・整形外科・リハビリテーション科
参考文献
- 日本肝臓学会「奈良宣言特設サイト(一般の方向け)」
- 肝炎情報センター(国立健康危機管理研究機構)「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「γ-GT」
- 厚生労働省「肝炎総合対策の推進」
- 日本消化器病学会「脂肪性肝疾患の日本語病名に関して」
この記事の監修者
鈴木一平(すずき いっぺい)
医療法人社団護友会 友成第二医院 院長
広島大学医学部医学科卒。総合診療医として内科・救急・訪問診療に従事。
日本内科学会内科認定医/日本専門医機構認定内科専門医